こんこん録

きつねが覚えたての日本語で書いてます。睦奥宗光の『蹇々録』をもじりましたが、特に外交論などを書く予定はありません。

中国とインドのイノベーション活動についての比較

今週頭、インドのNational Centre of developement studiesの教授の講演会が実施されたので聞きに行きました。

以下、議事録です。私用のメモであり、長い上にまとまりがありませんがご容赦ください。スライドは配布されましたがここには載せないので一部わかりにくいかもしれません。

 

二国の類似性と相違、概括

中国とインドはしばしば類似していると言われるが、経済の規模や経済構造などは異なる部分も大きい。

まず、実質GDPでいうと中国はインドの3倍くらいである。中国とインドの統計局の数字はトリッキーであり、批判の的となることがよくあるが、世銀等の調査を見ても、中国の方がずっとインドより大きく、ここに第一の相違が見出される。

 

経済構造は農業、工業、サービスの3つのセクターの貢献度合いによって測定される。工業の中でも製造業は産業セクターの重要なコンポーネントである。中国は製造業が高い貢献を示しているが、インドではサービスセクターが支配的である。ほとんどの技術革新は製造業によって生まれるため、その意味でインドにはディスアドバンテージがある。

中国は世界工場と言われるくらいに製造業の付加価値が重要な部分を占めている。インドも同じように言われるが、世界ランキングでは6位であり、中国よりずっと規模が小さい。

 

この二国は世界でもっとも急成長している国と言われる。特にインドは中国よりも今後の成長が早いと推計されている。では成長の原動力となっているのは何だろうか。

より多くの資本や労働力を使えば経済的成長は起こりうるが、同じレベルの資本と労働力を使ってよりよいアウトプットに転換することができればそれはテクノロジーが成長に貢献したことを意味する。この二国の早い成長は資本や労働力をふんだんに使っているからなのか、それともテクノロジーの寄与が大きいのかどちらだろうか。

 

中国とインドでは所得の不公平があり、拡大している。IMFはこの二国の国内の格差について、南米諸国よりも高いという見解を示している。

中国におけるジニ係数は、99年では33%だが、2013年では53%に広がっている。インドは45-50%である。つまり成長率は高いが、様々なセクターが除外されていることに注意する必要がある。

 

テクノロジーの貢献度を測るため、成長率が資本や労働力によるものでないかどうかを調べる方法がある。代表的な例は以下の通りである。

 

  • GDPの成長率と資本の成長率とを比較する

これによると、物理的なインフラへの投資が影響しているのは間違いないが、中国とインドのGDPの高成長率は単に安い労働力を使っているためではないということがわかる。この二国は高成長なだけでなく、リソースを効率的に使って成長しているということである。

  • global inovation indexという複合指標を用いる

07年から241カ国を比較し、イノベーションの質を測定するという方法である。具体的には、学術論文の引用数、取得された特許の数、大学のランキングなどの因子を使う。これによると、中産所得国の中では中国、インド、ブラジルはこのindexが高い。特に宇宙・航空の技術は中国インド共に好成績であり、08年から14年までの期間において、日本、ロシア、ドイツと並んで大きな競争力を培っている。

 

さらに中国は世界の主要な通信機器の40%を輸出している。20年前は中国の比率は0だった。0から40%にまで躍進したということである。香港を中国に含めるとこの数値は54%にも上る。

中国のパフォーマンスは分野が限定されている。電子機器のシェアも大きいが、中国ブランドというものはない。しかし通信機器には中国にブランド力がある。

インドについては世界最高のコンピューター、サービスの輸出国である。ここでいうコンピューターはハードではなくソフトウェアサービスという意味であることに留意されたい。

 

R&D指標について

Gross domestic expenditure on R&D (GERD)とは、GDPに占める研究開発費の比率を知るための指標である。主に、(1) インプットの測定指標(企業が研究開発をすること)と(2) アウトプットの指標(研究開発のアウトプット、取得した特許の件数、イノベーションの速度)がある。

GERDは中国もインドも同じレベルからスタートしたが、いまや中国はGDPの2%を研究開発に投資し、かなりのリソースをイノベーションの活動に使っている。フランスは1.8%なので、中国はすでにフランスをしのいでいると言える。一方、インドのGERDは1%に満たない。また、2013年のGERDの歳出額を国際比較すると、中国はアメリカに続く第2位であり、ランクは上昇を続けているが、インドは7位に留まっている。

 

中国におけるGERDの7%は企業によるものであり、この数値は日本、韓国、ドイツと比肩しうる。つまり中国ではR&Dにおける政府の役割は下がっており、堅牢な形で発展してきたことを示している。多くの世界の主要国も同様で、韓国も70年代には政府主導だったが今では企業主導である。

インドも政府のシェアは下がり企業によるものが増えているが、高等教育機関、大学によるシェアには変化がない。インドのR&Dは中国に8倍もの差をつけられている。

技術の専門性を見てみると、中国は主に通信機器、コンピューター、エレクトロニクス、化学、自動車などが主流である。インドは製薬・化学と自動車工業が優位である。

政府主導から企業主導になるのは有利な流れであるが、政府の役割も決して小さくはない。中国では70年代以降に多くの企業が誕生したが、国営企業も重要であるため、政府は大きな影響力を持っている。Huawelが民間セクターかどうかも定かではない

 

インドに関しては政府がR&Dへのシェアを減らしており、最新の予算では研究開発の助成金減ってきている。さらに、研究開発を行う科学者やエンジニア等の人材が不足しており、供給過小に陥っている。

インドの企業はイノベーションへのインセンティブがない。寡占状態が続いているため競争がないためである。たとえば、韓国も寡占的なのは同じだが、輸出国間の競争はあるので、そこでイノベーションが生まれている。

 

研究員一人当たりの研究開発費については、購買力平価では一人当たりの支出は全く同じなのでインドと中国には差がない。次に社内の研究開発に占める支出と外国から技術を輸入する支出の比率(この二つの支出は補完関係にあるといえる)を見てみると、07年では中国とインドは同じレベルだった。現在、平均的な中国の企業は、技術輸入に占める費用の割合よりも社内の研究開発への支出が12.7倍高い。ところが、インドの企業は07年から比べて外部依存的になっており、しかも年々悪化している。

 

オフショアリングリサーチという言葉がある。インドは研究開発の拠点として世界で一番有利な場所である。製品設計やエンジニアリングでもインドは好まれる。中国もその傾向はあるがインドほどではない。

これはどのような意味合いを持つのだろうか。

インドは研究開発を多国籍企業が行っているのであって、インドの企業が行っているわけではないということである。日本でも、HITACHIやSUZUKIは研究開発のかなりの部分をインドで行っている。インドで多くの研究開発が増えているのは多国籍企業の功績によるものということである。

一方、中国は国内の企業が研究開発を行っている。ここに大きな違いがある。

 

研究開発のコストを測る指標として、「どれほどのお金をかけたらアメリカの特許を1件取得できるか」というものがある。

2011年の時点で、中国では5900万USD、インドは1300万USDである。研究開発の効率はインドの方がよく、低コストでR&Dが可能ということである。多国籍企業がインドで研究開発を行うのはここに理由がある。

中国もインドでR&Dを行っている。量はともかく、質はインドの研究開発の方が中国よりも高いが、これを行っているのはインドの企業ではなく多国籍企業であることを繰り返しておきたい。

 

R&Dのアウトプット指標に特許の件数がある。米国は最もよい発明のみに特許を与えるため、米国の多くの特許はイノベーションの量だけでなく質も測ることができる。

多くの国で、管轄庁はその国の発明のみに特許を与える。もし世界標準の特許が欲しいならばPCTの特許を出願する必要がある。

 

まず国の管轄庁による特許だが、ほとんどの発明は居住者によるものである。たとえば日本の特許庁の過半数は日本の個人や企業による。中国(SIPO)の特許もほとんど中国の居住者に与えられている。一方、インド(IPO)を見るとほとんどが多国籍企業であり、インドの企業の発明ではない。

 

技術の専門性について

中国はエレクトロニクスに、インドはコンピューターテクノロジーに強みを持つが、インドではコンピューターのソフトウェアに特許は認められない。2004年から短期間与えられていたことがあったが今はハードのみに与えられる。製薬についてはインドの企業の特許件数も多い。

USPTOを見てみると両国ともシェアは劇的に増えている。中国のシェアは2.7%、インドは1%に上る。ほとんどはアメリカ、日本、韓国、台湾、ドイツ等の国であるが。韓国と台湾は米国における特許取得においてヨーロッパをしのいでいる。

件数で見ると中国は9000件、インドは3500件である。アメリカの特許のデータは実用特許と意匠(design)特許が区別されている。実用特許は新しい発明に与えられるため、そちらの方がイノベーションは高い。インドはほとんどが実用特許であり、中国も比率は同じである。

中国の企業Huawei、ZTE、精華大学はアメリカでの特許保持者の主要なプレイヤーであるが、インドの場合はCSIRを除いてほとんどインドの企業がない。

イノベーションを促進させるための提言として、以下の3つの条件がしばしば挙げられる。

 

①実用特許の比率が増えなければいけない

②国内の企業の数が高くなければならない

③個人の発明家の比率が減って企業が増えなければいけない

 

①の条件は二国とも満たしている。②をインドは満たしていない。中国は③を2000年代半ばに実現したため、中国は全ての条件を満たしている。

 

政府の役割

中国は1979年の開放政策以来、ハイテクに焦点を当てて集中的にイノベーションに投資している。インドは「技術開発は自立させる」ということが言い慣らされていたが、アドホック的なものであり集中的な政策ではなかった。この数年間ではインドは注意深くなっているが、あまりにも最近のことであり、まだ結果は出ていない。

 

中国は公営の研究所を民営化し、それがイノベーションを加速させている。インドも同じことが行われてはいるが研究所への助成金が減ってしまったため、成果はまだ生まれていない。

 また、中国はハイテクへの税制面での優遇政策が行われているが、インドはそうではない。インドも宇宙と原子力だけは例外である。

Huaweiのイノベーションの順位は上がっている。韓国のサムソンは米国の特許では1,2位を争うプレイヤーであり、韓国と同じ道を中国も歩むと思われる。しかしインドで最もランクが高いのは760位に過ぎない。それはコンピューターソフトウェアのイノベーションによる特許である。

 

大学の役割

中国の大学は改革を続け、科学と工学に強みがある。大学の指標は何を使うかにより変わるのでトリッキーだが、どの指標でも科学技術で中国は評価を受けている(社会や人文ではそうではない)。中国の大学からスピンオフされた技術が企業に使われることもある。

インドの大学は改革が不十分で、世界ランキングにインドの大学は入っておらず、R&Dにおいても、産業に大学から生まれた技術が使われていることはほとんどない。

 

人材面でもインドではエンジニア、正社員の科学技術者の数が不足している。中国には353万人のR&Dのエンジニアがいるが、インドは100万人以下であり、まだ50万人にも達していない。

中国は1万人の労働者のうち43人がエンジニアだが、インドの場合はたった9人である。ちなみにフィンランドは250/1万人である。インドは人材が少ないが効率的に動いているとは言えよう。

 

インドに比べ中国は多くの外国直接投資を誘致している。

中国のFDIは香港やシンガポールによってもたらされることがあるため注意が必要だが、それを差し引いたとしてもインドと比べて多額のFDIを誘致している。

中国は多国籍企業からのspill-overを行うことによって開発の能力を高めてきた。インドはまだいろんなspill-overがあるとはいえまだ自立的とは言えない。

 

インドでも中国でもハイテク分野のベンチャーは活発になってきているが、インドは2016年1月になってようやく政府がアクションプランを打ち出し、財政、非財政におけるインセンティブを示した。中国政府の動きは2015年に始まっている。つまり二国とも最近になって施策ができたので効果測定は時期尚早である。

 

インドは中国に対し技術開発の集約度は低い。しかしインドは近年、フルーガルイノベーションのハブとなっている。フルーガルイノベーションという言葉には特に定義はなく、記述があるだけである。例えば、車や医療機器などを作るのに1万ドルかかったとする。それと同じものを量産し、サービスを低下させずに1000ドルで売ることができるとすれば、これがフルーガルイノベーションである。

インドの場合は多国籍企業によってこのフルーガルイノベーションが行われている。ただし多くはパイロットプロジェクトであり、市場で買えないこともある。心電図のコストを大きく下げる技術などは時間や空間を超えて複製することができ、先進国にも輸出されている。

フルーガルイノベーションは機能を減らすことによって行う場合はあまり普及しない。例えばナノカーがその例だが、インドでも失敗した。フィーチャーを減らしてコスト削減を実行したため、消費者に好まれなかった。

外国の大学でもフルーガルイノベーションに取り組むことがあり、スタンフォード大学では医療機器を安価に作るというプロジェクトが実施された。