こんこん録

きつねが覚えたての日本語で書いてます。睦奥宗光の『蹇々録』をもじりましたが、特に外交論などを書く予定はありません。

映画の話(新作編)

今年は映画を100本とは言わないまでも80本前後観て、そのおかげでかなり充実した生活を送れたような気がする(映画ファンからすれば大した数ではないのかもしれないが、私は根っからの映画好きというわけではないので、意識して多くの映画を観ることはあまりない)。家ではDVDを観て、週末には映画館に足を運び、日常の様々な出来事が観た映画と密接に関連している、そういう一年だった。その代わり読書量は例年より少なかった。たぶん200冊も読んでいないのではないか。

 
3月にオゾン監督の『17歳』を観た。今年の新作の中で最も好きな作品を挙げるとすればこれが真っ先に思い浮かぶ。彼の監督作品の中では他にも『スイミング・プール』や『まぼろし』などもかなり見応えがあったが、『17歳』はその中でも傑出していると思った。『スイミング・プール』のときにも感じたことだが、彼の撮る若い女優は時折、幼さと成熟を共存させたような振る舞いをすることがあって、その危うげなバランスが観る者に新鮮な感銘を与えるのだと思う。
ところでオゾンとシャーロット・ランプリングのコンビはとてつもなく素晴らしいので、これからも息の長い女優業を期待したい。
 
オゾン監督以外で今年度注目していた監督の一人がカナダ人のグザヴィエ・ドラン。彼は19歳でデビューした、現在25歳の早熟な鬼才である。処女作の『マイ・マザー』は高校生のゲイの男の子とその個性的な母親との間の確執や愛憎を描いた物語。ちなみに主人公の高校生はドラン監督本人が演じている。
私が今年最初に観たのは彼の一番の話題作と言っていい『わたしはロランス』だった。まず惹きこまれたのは、映像の色彩的な美しさである。主人公のロランスとその妻フレッドとがふざけて洋服を投げるシーン、後半の、空からたくさんの服が降ってくるシーン。その二つの情景は目に鮮やかで、記憶の中の二人の過去の幸福な場面を一瞬で蘇らせる。こういった、圧倒的な色のセンスを持った監督は、他にあまり思い当たらない。
ロランスは性同一性障害の青年で、フレッドはそんなロランスを一度は拒絶するが、時が経つにつれ少しずつ彼のあるがままの姿を受容してゆく。けれど、二人は別離の運命を迎えてしまう。2時間半に渡って描かれる、リアルで克明な、少し変わった夫婦の物語。
 
ちなみに、ドラン監督は自身が同性愛者であることを公言しており、作品にもセクシュアルマイノリティの登場人物は多い。しかし、そのせいで「ゲイが作ったゲイフレンドリーな映画」という点が過剰に強調されてしまい、ある種の色眼鏡をかけて観られることが多くなってしまうのでは、と私は危惧していた。実際、彼の映画のレビューには、「監督は同性愛者だから〜」といったコメントが非常に多い。また、そのせいで彼の映画が私小説的な作風にとどまってしまうとしたら、それは非常にもったいないことだとも思っていた。
その杞憂を払拭してくれたのが、秋に公開された彼の新作『トム・アット・ザ・ファーム』である。これは今までの作品とは雰囲気を一新した、ミステリともホラーとも言えるチャレンジングな映画だった。主人公のトム(同性愛者)が交通事故で亡くなった恋人の葬儀に出るため、田舎にある恋人の実家を訪れたところ、驚くべき事実が判明した。実は、恋人はトムの存在を家族に隠していたばかりか、会社の同僚と付き合っているという嘘をついていた。さらに、恋人の兄は暴力的な性格で、同性愛者であることを人に漏らすなとトムを恐喝する。閉鎖的な田舎の社会に足を踏み入れたトムは、日が経つにつれ亡き恋人の兄に支配されてゆき、やがてそこから抜け出すことができなくなる…。田園地方の寒村の人間関係が織りなす狂気と、脱出したくてもできないトムの不安や焦燥とが、異常なまでの緊迫感をこちらに与えてくる。良い作品だった。どことなくオゾンの影響も受けている気がした。
 
長くなってしまったので割愛するが、ドラン監督の作品はすべてかなりの佳作だった。音楽も映像も監督のセンスの良さが出ている。音楽は特に『胸騒ぎの恋人』が良かったな。天使のような美形の青年ニコラが、きまぐれな愛で主人公たちを振り回す、かわいらしくて切なくて奇妙な三角関係のお話。
 
新作以外の映画についてはまた別の記事で書くかもしれないし、面倒になって書かないかもしれない。
Anyway, happy new year!